研究

私たちの研究室は実行制御・意思決定・学習と記憶を中心とした高次の心理機能を実装している脳の大域的な機構に興味を持っています (各内容については出版物をご覧ください) .とりわけ,進化の過程で発達してきたと考えられているヒトを特徴づけるような心理機能に着目しています.

ヒトの脳機能を調べるためには,特殊な状況を除いて非侵襲的な生体計測手法を用いる必要があります.私たちの研究では非侵襲脳機能計測法として主に機能的MRI (functional MRI: fMRI) を用いています.機能的MRIは比較的高い空間解像度 (約2mm) を持ち,脳の深部や解剖学的構造が比較的小さい領域も含めて,神経活動に関連した信号 (blood oxygen level dependent: BOLD) を脳全体から一貫して取得することが可能です.この特徴から,ヒト脳の大域的な機構を調べるには機能的MRIは依然として強力な手法の一つであると考えています.

しかしBOLD信号は時定数が数秒以上と大きく,時間解像度は神経細胞の活動電位の伝達速度からくらべるとはるかに低いという問題があります.これはBOLD信号は発火した神経細胞周辺の毛細血管の血液動態に依存しているためです.この生理的な限界は,複雑な心理・認知プロセスが短時間で作用するような行動を調べるときには決定的な問題となり得ます.とりわけ,脳機能の動的な側面や領域間の相互作用の機構を機能的MRIで調べるのは大きな挑戦となります.

Okayasu et al. Nat Commun 2023.

私たちの過去の研究では,実行制御や選択行動におけるヒトの脳活動の時間的動特性を機能的MRIを用いて調べました (Jimura & Braver 2010; Jimura et al. 2010; Jimura et al. 2013; Tanaka et al. 2020; Shintaki et al. 2022; 2024) .これらの研究においてMRI信号の動特性と心理機能の関係を調べることができたのは,解析対象の信号の時定数が数十秒以上だったためです.私たちは現在,精緻な心理機能を実装する脳の大域回路の機構を調べるために,MRI信号で解析できる時定数の最小値をさらに小さくできるような解析手法と実験をデザインし,高時空間解像度撮影を行っています (Tsumura et al. 2021; 2022a; 2022b; Okayasu et al. 2023) .

Shintaki et al. Cereb Cortex 2024.

一方で,機械学習の理論と技術の発展は,脳機能画像の解析に多くの選択肢を提供し,結果の解釈の多様性をもたらしています.私たちは,分類器が抽出する情報が,標準的な機能的MRIの解析とどのような関係にあるのかを情報学的・生理学的に理解したいと思っています (Jimura & Poldrack 2012; Jimura et al. 2014; Tsumura et al. 2021) .そして,分類器の汎化性能を上げ,分類特徴の空間を可視化する手法を用いて,脳機能マッピングに新しい枠組みを導入したいと思っています (Tsumura et al. 2022a) .

現在は下記のようなプロジェクトをすすめています:

認知の実行制御機構

価値に基づいた選択行動の機構

実行制御と意思決定の関係

機能的MRIの時間領域解析

Tsumura et al. J Neurosci 2022.

Shintaki et al. bioRxiv 2022.

Tanaka et al. J Neurosci 2020.

 Tsumura et al. J Neurosci 2021.